「心が読める男」
とある学校にて。
人の心を読むことができる教師が居た。名前は真読透(しんどく とおる)。
いつも誰かの心を読んでは、生徒を指導していた。
周りの教師から「とても良い先生だ」と褒められていた。
しかし真読は誰にも言えない問題行為を起こしていた。それは、
――1人の女子生徒、平梵七菜(へいぼん なな)の心を読み、スケジュールを全て把握しつくしていること。
真読は他の女子生徒に人気があるが、その女子生徒とは違う、平梵に恋心を抱いていた。
平梵は真読のことを何とも思っていない。無関心である。
そんなところがまたいいらしい。
しかし平梵は美人でもそうでもなく、ただ普通にどこでも居るような女子である。
だがそこがいいらしい。
そして平梵の趣味は特にないらしく、いつもぼーっとしている。
そこもいいらしい。
真読はとても変わった男であった。
そんな真読は平梵についてのノートを持っていた。色々なデータが詰まっているノートを。
どんな人物か、いつに何をしていたか、これからどのような予定があるか、人間関係はどうなのか、身長、体重、スリーサイズ、誕生日、血液型、星座、成績……など。
すべてを知り尽くしているノート。
ちなみに色々なとこで撮った彼女の写真もある。数百枚までのぼるほどの。
真読は職員室でそれをちらっと読み、机に置いた。
ふと時計を見ると、次の授業が始まりそうだったので真読は教室へと向かった。
そのとき、そのノートが床に落ちた。しかし真読は気づかずそのまま行ってしまった。
そこを通りかかった校長、風鈴月子(ふうりん つきこ)がそのノートを拾った。
「真読くん、落としましたよ」
呼びかけても真読は気づかなかった。
風鈴は少し傷つく。風鈴は旦那が居るにも関わらず、真読に恋心を抱いていたのだ。
風鈴は少し躊躇ったが、結局そのノートを開いてしまった。
もちろん、驚愕した。数百枚の写真がその場に落ち、そして平梵についてのデータが大量に書いてあったのだから。
風鈴に怒りが込み上げてきた。そしてあることを決意した。
――私のほうが美しいはず。だから邪魔な平梵を退学させよう、と。
とりあえず真読と平梵を校長室へと呼び出した。
「真読くん、これはどういうことですか」
「そ、それは……!」
「一人の女子生徒をこんなに追い掛け回して……貴方はそんなに楽しいですか」
「追いかけてないです。すべてこの僕が彼女を見るだけで発覚したものです。写真は確かに追い掛け回したものですが」
真読は一応、心が読めることは言わないでおいた。
「平梵さん、貴女このことを知ってどう思いましたか」
「特に。私はもう知ってました。いつも追い掛け回されているので」
そりゃそうだ、と風鈴は思う。
――さて、どうやって退学させるか。
そう考えた瞬間、真読は驚いた表情を浮かべた。
風鈴へ……ではなく、平梵へ。
「平梵……さん?」
「校長先生、私を退学させようとしてるんですか」
「っ!? 何故、それを……?」
真読は驚くことしかできなかった。声が出なかった。
―― 平梵も、心を読むことができたのだ。
「やはり、真読先生は気づいたんですね。私も心を読めることを」
「あ、ああ……」
「心を読める……ですって?」
そんなことがあるのか、と風鈴は疑いの目を向けた。
しかし退学させようとしてるのがバレたのなら、それは事実だろう。
「無駄ですよ、校長先生。貴女の私情で私を退学させるなんてことが教育委員会にバレたら、貴女が首を切られることになります」
「く……っ」
「校長……気づいていましたが。……流石に僕は熟女は好めません」
女子生徒からの攻撃、そして愛しの人からフラれる。これ以上の屈辱はないだろう。
風鈴はその場に崩れ落ちた。しかし、真読は風鈴へと近づく。
「さあ校長、いったん家へと御帰りになってください。貴女の旦那さんが待っています」
「そうですね……。ありがとう、真読くん」
風鈴は頬を伝う涙を拭い、校長室から出た。
すると平梵は真読のほうを見て、一言投げかけた。
「真読先生、私の心ちゃんと読めてます?私、先生のこと――」
~END~