「……」
「う?」
「……こんにちわ」
「……?こ、ん?」
「駄目だ……」
蒼依が帰ってから雪乃を喋れるようにしようと何回も挑戦しているが、駄目だ。
かれこれ1時間格闘している。
「もういつになったら喋るんだよぉ……」
「気づけば喋れるようになるわよ。ねー、雪乃ちゃん」
「?」
母さんが雪乃の頭を優しく撫でる。そんな他人事のように言うなよ。
「なあ母さん」
「なぁに?」
「……夏休み明けたら、この子どうすんの」
夏休み明けたら俺は学校に行かないといけないし、母さんは仕事にいかないといけない。
そうすればその間、雪乃は家に一人でいることになる。
雪乃を家に一人で置いておくのはちょっと心配だもんな。
「一番手っ取り早いのは学校に行かせることよねぇ。でも雪乃ちゃんが喋れないことには、どうにもならないわ」
「だよなぁ……」
だから夏休みが明けるまでには雪乃に喋れるようになってほしい。
……そうだ。テレビをずっと見せてれば覚えるかな。何かいいバラエティ番組やってねぇかな。
お、この番組結構良さそうだ。
「ほー……」
よし、興味持ち始めた。
「むー」
ピッ。
番組変えやがった。……って、え?ニュース?
「はふぅ」
……気に入ったようだ。えー、うそん。
「……?わいせつこーい?」
「よし、番組変えようか」
「ふぇ?」
この子には余計な言葉を覚えさせちゃダメだ、うん。
そして最初にマトモに喋った単語が「わいせつ行為」て。ヤバいぞこれ。
まあさっきのバラエティ番組は気に入らなかったから、あれはなしとして。
そうだ。教育テレビとかのほうがいいかもな。そう思い、俺は教育テレビに変えた。
すると雪乃は首を激しく横に振った。えぇ、まじで?
「ニュースつけてあげたらどうなの?」
「でも変な言葉覚えたら……アレじゃん」
「流石にもうさっきのニュースやってないでしょ」
「……分かった」
俺はもう一度さっきのニュースに変えた。
「ほぉ……。よーじょゆうかい……?」
「うん、やっぱ変えよう」
何で最近はこんなニュースばっかなんだよ。このロリコンどもめ。
……俺も結構二次元でロリはまあまあ好きだから人のこと言えないけど。
「母さん。明日くらいに雪乃に絵本か何か買ってあげてよ」
「自分で買いなさいよ」
「俺金ないんだよ」
「ゲームに使ったからでしょ」
「……分かったよ俺が買えばいいんだろ買えば」
はぁ……仕方ない。明日買いに行くか。
俺はテレビを消して嘆息した。