「この花、夏に咲かないのか?」
「ええ。咲くのは2月から3月の間なのよ。名前は、『スノードロップ』」
スノードロップ……いかにも冬に咲きそうな名前だ。でも何でその花をこの子が持ってるんだ?
この花、枯れることがないとか……いや、それはないか。
「狂い咲き……かしらね。でも冬の花が夏に咲くっていうのは、狂い咲きにしてはおかしすぎるわよね」
「だな……。まあ何かあったんだろ」
「あんた適当ね……」
蒼依が溜息をつく。いや、だってもう俺の頭じゃ無理だし。
「ていうかこの子の名前どうしよう」
「そういえばなかったわね。どうする?」
「どうするって言われてもなぁ……」
俺、ネーミングセンスないぞ?すんごい変な名前つけるのは、この子が可哀相だし。
「『黒』と『雪』入れれば、なんとかなりそうじゃない?」
「おお、それもそうだな。じゃああとは俺の名字取ろう。結構使える」
「本当適当ね、あんた……。じゃあ『黒岸雪野』?でも『野』は変えた方がいいんじゃない?」
「確かに『雪野』って名字っぽいもんな。じゃあこれがいいんじゃね?」
俺は紙とペンを取って、「黒岸雪乃」と書いた。
「あんたにしてはいいの見つけたわね。いいじゃない。それにしましょ」
蒼依が珍しく俺を褒めた。うん、確かに俺にしては良い名前を付けた。
「あ、帰ってきたみたいよ」
「え……マジで?」
母さんの足音が玄関の前で止まる。そして、扉が開いた。